「よろこびのいろ」大野七実

初めて出会ったとき、大野七実さんは美大生でした。
卒業後は陶芸のアトリエで働きながら自らの制作に励み、
ときどき私が携わっていたギャラリーの展示替えを手伝ってくれました。

お皿やカップなどの食器をメインに制作していましたが、
あるとき、円形の愛らしいふたものを作って、
ギャラリーに持ってきてくれたのです。

わ!ボンホルム島の円形教会にそっくり!!
七実さんにそう伝えましたが、何のことだろう?
とピンとこない表情で私の話を聞いてくれました。

私が学校に通ったデンマークの島に建つ印象的な円形教会。
見ることなく、その佇まいを姿にしたひとと、
20年ほどの時を経て、共にその教会へと向かう旅に出たのでした。

 イナガキサナエ

「よろこびのいろ 」
大野七実(陶芸作家)

普段のわたしなら、きっとすぐに返事はしなかったでしょう。
「行きたい」
早苗さんのお誘いにそうこたえた自分に、いちばん驚いたのはわたし自身でした。
そうして3人の旅は、引き寄せられ、自然の流れのようにはじまったのです。

早苗さんが何度も訪れているデンマーク。
ずっと昔に教会のことを話してくださったその時から、
そこは遠くにぼんやりと存在する憧れの場所でした。
その地についたとき、自分がそこにいることがしばらく不思議で信じられないままでした。

風も空気も色もぜんぶが爽やかで、人々の笑顔や揺れる木々の緑がいちばん美しく輝く季節。
夜になっても日が暮れないこの夏至の時期。
見るものすべてが新鮮で活き活きと色鮮やかにこの眼に飛び込んできました。

冬のデンマークをわたしは知りません。
長く長く続く静かな夜。
きっとそんな冬があるからこそ、
北欧の人たちはいまのこの輝く季節をより大切に過ごしているんだろうと思うのです。
この旅で出会った人たちみんなに通ずることは、
それぞれが自身の暮らしを楽しみ、喜び、慈しみ、それぞれの今を明るく生きている。
もしかしたらその根源は、
ひかりの向こう側にある対なもののちからから湧き出ているのかもしれません。

鳥のさえずりもまた、幸せの音符が並び、
歌うように軽やかに、心地よいリズムを奏でていました。
それがなんとも楽しげで鳥ばかり探しては見ていたように思います。

日本に帰ってきて驚いたことは、
鳴いてるっ!
朝日が昇るころ、おはようと挨拶しているかのように。
今まで聴こえなかったのか、聴こうとしていなかったのか、
自然と耳に届く鳥たちの声。
じぶんの中で何かが動いた証でしょうか?
無意識の目覚めは、見慣れた景色を喜びの色に変えてくれたのです。

笑いっぱなしの旅の友、
のまちゃんの笑顔はこの旅の太陽みたいに終始私たちを照らしてくれていました。
最終日、そののまちゃんの抱える想いの影の部分が、
3人の会話の最中にすーっと空へと飛んでいった瞬間。
その清々しくうつくしい彼女の顔をわたしはずっと忘れません。
そこへ導いた早苗さんの言葉とともに。

今回の旅のこころ強い案内人、早苗さんが幾年もかけて結んできた人々との繋がり。
ただの観光旅行では感じることのできないことばかり。
その大切な時間の一片にふれさせていただけたとが、この旅いちばんの宝ものです。
人と人とをつなぐこと。
わたしが若いころに巡り会ったその人はずうっとそうして、ひとを見て繋いできた人。

自分のつくったうつわもまた、わたしと誰かを繋いでくれる。
自分のつくったものが誰かの喜びに変わるとき、わたしの重ねてきた時間が満たされる。
このデンマークの旅で感じたものが時を経て、
うつわの奥に気配となって潜んでいくことが今から楽しみでなりません…

なんども眺めていたヒナタノオトに貼ってあるボンホルム島の地図。
きょう見てはっきりと思ったことがあります。
遠い異国の地はいま、わたしが歩いた場所に変わり、
実感として、しっかりとこころに刻まれている。

そのことを素直に喜べるじぶんが、そこにいました。

text and photo   大野 七実

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デンマーク、ボンホルム島には4つの円形教会が建っています。
七実さんが撮影したのはバスから見えたNykerの教会です。
私も車中から撮ってみました。

20年以上も前、その存在も知らずに作った七実さんのふた物を彷彿させる佇まい。
教会を見つけたときの車内での七実さんの表情、
生き別れていた同胞に出会ったような、不思議そうな、なつかしそうな、
愛おし気な表情が、とても印象的でした。

今回、3人で実際に訪ねてみたのは、
4つの円形教会の中でもっとも大きなØsterlars(エスターラス)教会。
入り口で七実さんと記念写真を撮ってみました。

デンマークへと七実さんを誘ってくれたかのような円形教会。
この旅は、まだきっと始まったばかり。
これからデンマークを通じて、七実さんはどんな出会いを果たしていくのでしょうか。

〇4つの円形教会、ぜひ見ていただきたくて画像を探してみました。
今も地域の方々に大切にされている、それぞれに愛らしい姿です。

→ click

七実さん、nomamaさんとの旅の扉の続きは、
ボンホルム島にある美術館での展示のお話しなども。
その前に、ユトランド半島北部にあるISAGERさんの工房のお話しもありますので、
ゆるりとなりますが、進めますね。

イナガキサナエ

「初めての北欧」 佐藤暁子(nomama)

2017年夏の北欧行。

いつもは一人訪ねる北欧へ、今回はふたりの同行者が現れました。
陶芸作家の大野七実さんと織作家nomamaさんこと、スタッフの佐藤暁子。
ボンホルム島にある美術館での日本作家展への出品という目的も持ちつつ、
ちょうど背格好も同じくらいの愛らしい双子ちゃんのようなふたりと一緒の北欧は、
エルダーフラワーとバラが満開の初夏のベストシーズンと重なって、
新鮮な喜びに満ちた旅となりました。

イナガキの今回の渡航記を前に、nomamaさんからのお便りをお届けします。
(七実さんからも届くかな?nomamaさん第二弾もあるかな??)

イナガキサナエ

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数年前、ヒナタノオトの窓辺カフェでひとり、
コーヒーとケーキを楽しみながら、
穏やかな時間、少しのおしゃべりとボーっとできる空間の温かさに
なんとも言えない心地良さを感じました。
このひと時がデンマークの人たちの大切なヒュッゲという事を
この後、稲垣さんの本「北欧の和み」で知ったのです。

そこから私のヒナタノオト通いとデンマークへの憧れが始まりました。

そして気がついたらヒナタノオトのカウンターの中に入り、デンマークに来ている…

人生はなんて不思議で素敵なのでしょう。

何かの度に「デンマークに行きたい!!」と言っていた事が実際に叶った今回の旅は
言葉にするのは大切だな…と感じる旅でもありました。

旅の仲間は陶芸家の大野七実さん。
そして勿論、稲垣さん。
デンマーク、ボンホルム島での「Contemporary Japanese Crafts」と言う展覧会への出展を目的としつつ、
憧れのデンマークを体感する1週間です。

満開のエルダーフラワーとバラの香り、
鳥たちの歌声にあふれた6月のデンマークは
陽の光が長く輝く季節。

祝福されているようで、毎日がキラキラと輝きに満ちていました。

ただ良い季節に来たからではなく、
ただ旅先での開放感からではなく、
この国には心を自由に豊かにする何かがある。
それは何なのか….

答えは何百年も暮らし継がれた彩り豊かな家や
そこに暮らす人たちから教えてもらいました。

自然に対しても、家に対しても
「住まわせてもらっている」と言う人間主体じゃない暮らし。
自然と共に、時間や空間を大切に….
そこから自由な生き方、生きる喜びを大切にする暮らしが成り立っているんだな….と。

そして、なんと言っても人生の先輩達のチャーミングさと言ったら!!
チャーミング先輩だらけなのです。
いくつになっても生きる事に喜びと希望を持てる人生。
それがデンマークなのだと感じました。

デンマークに通い続けている稲垣さん。
通い続けた人に連れて来てもらった旅。
良いとこ取りの旅だから気付けた事かも知れません。

旅で感じたデンマーク、旅で語った言葉のひとつひとつを
そのまま日本に持ち帰りました。
ヒナタノオトのヒュッゲに、
制作のワクワクに、
チャーミングな生き方に、
すべてに素直に表れる事を願って。

スタッフ 佐藤暁子(織り作家nomama)

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チャーミング先輩!とは、nomamaさん言葉ならではのデンマークの人々の印象。
いくつになっても、年齢のせいで想いをあきらめないのが、
出会ったデンマークの人たちのすばらしさでした。
やってみたいこと、いってみたいところ、、、、。
あとさき、ではなく、今。
今を精一杯味わって生きる。
そんな姿に惹かれて渡航を重ねてきましたが、
nomamaさんは、それを見事に一回で感じ取られたのですね。
ところでnomamaさん、フィルムカメラで撮影していました。
上の画像、デジタルとは趣がちがいますね。
どこかノスタルジックな感じというか。
私は個人的に最後の写真がうれしかったです。
いつもひとりなので、自分の写真がなかったので。
扉や窓や壁、、、そう家や家並みの写真ばかり。
その中に自分は本当にいたんだー、と、
愛してやまない風景の中にいる自分と再会できたことも、
よき同行者を得た喜びでした。

イナガキサナエ