membrilloを巡る旅

『membrilloを巡る旅』

大好きな季節、秋。
食の秋、芸術の秋、旅にも出たくなりますね。
そんな事を考えていたらある旅を思い出しました。

2011年の春も終わりの頃、スペイン北部を西から東へ旅をしました。
訪ねる街で何度となくチーズの相棒として登場した洋梨のジャムのような、
羊羹のような不思議な食べ物に私はすっかり魅了され
ワインやパンに合わせて食べに食べました。
その魅惑の食べ物はメンブリージョと呼ばれスペインではポピュラーな食べ物。
一緒に旅したクリスティーナの親戚からタッパーに入った
手作りのメンブリージョをいただいた時は、
もったいない病を患いながらチビチビと大切に味わったものです。

その旅から少しして、ビクトル・エリセ監督の
「マルメロの陽光」という映画に出会いました。
スペインの画家アントニオ・ロペス・ガルシアが黄色い果実がたわわに実る
庭のマルメロの木を描くドキュメンタリー。
この映画の原題が「El sol del membrillo」
アントニオ・ロペスが描いていた黄色い実がメンブリージョだった事を知りました。

140分あるこの映画は画家が黙々とキャンバスを張るところから始まります。
そして一日の少しの時間、陽の光にマルメロが輝く瞬間をキャンバスにおさめようと、
友人や家族と談笑しながら、ラジオを流しながら、
晴れの日も雨の日もキャンバスに向かうのです。

冬が近づき重くなったマルメロには十字に白い線が引かれます。
元の位置に合わせるように友人や家族が棒でマルメロの実を支える姿に
周囲は「今年は描き上げられるのか?」と心配し始めます。

求める光を描く為に滑稽な程にこだわる姿、描く時間を楽しむ姿、
思い通りにいかない苛立ちを含め、
創り出す全ての喜びが制作過程を通して描かれています。
描くことが人生の全て。
画家の人生を目の当たりにします。
何度と観たくなる素晴らしい映画。

2013年に渋谷のBunkamuraで開かれたアントニオ・ロペスの展覧会で
『マルメロの木』を見た時、スペインで出会ったメンブリージョが
映画を通してこんな形で出会えるとは…と
長い旅がようやく終わった気がしました。
membrilloを巡る旅。

今回作ってみたメンブリージョ。
美味しいけれどちょっと違う。
なかなか本場の味には近づけそうにありません。